大阪大の研究チームは、雄マウスの人工多能性幹細胞(iPS細胞)から卵子を作製したと発表した。理論上、不妊治療や性的マイノリティーが子どもを持つなどの目的で、人間にも応用可能だが、技術面や倫理面でクリアすべきハードルは多い。
細胞には性別を決める染色体がある。雄(男性)はXとYの染色体を1本ずつ、雌(女性)はX染色体2本を持っている。チームは、雄の細胞の培養を繰り返すとY染色体だけが消失することがある現象を利用した。雄マウスの皮膚細胞から作ったiPS細胞の培養を1週間ほど繰り返し、X染色体1本の細胞を作製。この細胞に特定の化学物質を加え、X染色体2本を持つ細胞を生み出し、卵子に分化するよう誘導した。
この卵子と、別の雄マウスの精子とを受精させてできた630個の受精卵を、十数匹の雌マウスの子宮に30~40個ずつ移植したところ、7匹(雄6匹、雌1匹)のマウスが誕生した。生まれたマウスに特に異常は見られず、生殖能力もあったという。
チームによると、今回の手法で人の卵子を作製するには6カ月以上培養する必要があり、異常が発生しやすくなる可能性があるという。チームの林克彦・大阪大教授(生殖遺伝学)は「人への応用はまだ10年はかかるだろう。女性の染色体異常による不妊治療に役立つと考えているが、理論上は男性同士で子どもを持つことも可能になる。ただ、人に応用するには社会的な議論が必要だ」と話している。
研究結果は、3月15日付の英科学誌ネイチャーに掲載された。
文科省指針「人の受精禁止」
雄マウスのiPS細胞由来の卵子から子を誕生させる技術は、理論的には人への応用も可能だ。だが、国の指針など倫理的な制約があり、専門家は「慎重な議論が必要だ」と指摘する。
iPS細胞から作製した卵子が機能するかを確認するためには受精させる必要があるが、文部科学省の指針は、人のiPS細胞由来の卵子や精子を受精させることを禁じている。一方、人への応用が技術的に可能となる時代の到来に備え、内閣府の専門調査会は指針の見直しの適否について議論を始めている。
京都大の藤田みさお特定教授(生命倫理学)らの研究チームが2017年に実施した市民3096人対象の意識調査では、研究目的として人のiPS細胞由来の卵子や精子で受精卵を作製することを「受け入れられる」とした人は51・7%。「受け入れられない」は48・2%で、拮抗(きっこう)している。
藤田教授は「人の生殖への応用ではミスが許されない。生まれてきた子どもに対する責任についても考える必要がある」とした上で「今回の技術は、性的マイノリティーの人たちの生殖を可能にすることに道を開くことにつながるが、同性婚など、それ以前に議論すべきことも多い」と説明する。【田畠広景】
からの記事と詳細 ( 雄マウスのiPS細胞から卵子作製 阪大「人への応用は議論を」 - 毎日新聞 )
https://ift.tt/39fBDp8
No comments:
Post a Comment