米国の研究者らが開発した「クリスパーキャス9」は、その簡便性からゲノム編集に革命をもたらした。一方で遺伝子を編集する役割を持つキャス酵素は複数存在する。大阪大学発スタートアップのC4U(大阪府吹田市)は独自のゲノム編集ツール「クリスパーキャス3」の実用化を目指す。技術の特性を生かし、医療分野への応用を見据える。
クリスパーキャス3とは?
ゲノム編集はデオキシリボ核酸(DNA)の配列まで案内するリボ核酸(RNA)である「ガイドRNA」とDNAを切断するハサミの機能を持つキャス酵素を組み合わせシステム。編集を行いたい配列までハサミを案内して、遺伝子の一部を変更し、特定の機能を強めたり弱めたりする。医療であれば、疾患の原因になる遺伝子を修正することで治療する。
実用化に向けて課題になるのが、編集したい遺伝子とは異なる箇所を編集してしまう「オフターゲット」だ。標的にした遺伝子によく似た遺伝子に、ガイドRNAがキャス酵素を案内してしまうことで起きる。狙った箇所以外を編集してしまうことで、がん化するなどのリスクもある。
この課題を克服しようと、さまざまな研究が行われている。C4Uは長い遺伝子配列を認識するゲノム編集ツールを使い、オフターゲットを克服する。
認識する塩基が多い
代表的なゲノム編集ツールである、クリスパーキャス9は20塩基の配列を認識して編集を行う。対して、C4Uが使うクリスパーキャス3は27塩基の配列を認識して編集する。認識できる塩基の数が増えることで、オフターゲットが起きにくくなる仕組みだ。また、DNAの二本鎖を同時に切るクリスパーキャス9とは異なり、クリスパーキャス3は二本鎖をほどき、それぞれを別々に切断することで大規模な編集を行える。これを医療に応用すれば、遺伝子の特定箇所を編集するのに加え、遺伝子を大きく削れることで特定の機能を失わせることも可能だ。
クリスパーキャス9同様にクリスパーキャス3も、さまざまな分野に応用できる可能性を秘める。同社は先んじて、医療分野での応用を目指す。すでにライソゾーム病の一種「ムコリピドーシスⅡ型とⅢ型」の治療法開発を国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)と始めている。ライソゾーム病は細胞内で不要になった物質をうまく分解できなくなる病気で、国の指定難病の一つ。原因となる遺伝子がいくつかあり、どの遺伝子が機能していないかによって、疾患が分けられる。同社はクリスパーキャス3を使い、ライソゾーム病の治療法の確立を目指す。そのほか住友ファーマや京都大学iPS細胞研究所などの研究機関と共同研究を進める。
ただ実現の道のりは簡単ではない。平井昭光代表は「自社パイプライン(新薬候補)の開発には3年から4年程度必要だ」と話すように開発要素は多い。再生医療特有のコストの高さも克服する必要がある。それでも「既存の治療薬とは違い患者の多い市場を狙う必要はない。希少疾患など、明確な治療法がない領域でこの技術を生かしたい」と力を込める。
〈関連記事〉これまでの【ディープテックを追え】からの記事と詳細 ( 【ディープテックを追え】阪大発ゲノム編集を医療応用!|ニュー ... - ニュースイッチ Newswitch )
https://ift.tt/lTc7dsp
No comments:
Post a Comment