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Sunday, May 24, 2020

産総研:新規質量分析法とバイオインフォマティクスの統合によるメタボローム解析の新たなハイスループット・プラットフォーム“PiTMaP”の開発に成功!! - 産業技術総合研究所

名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長:門松健治)・高等研究院(院長:周藤芳幸)の財津 桂 准教授、東京女子医科大学の江口 盛一郎 助教、産業技術総合研究所の井口 亮 主任研究員らの研究グループは、新規質量分析法「探針エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(PESI/MS/MS)」と統計解析言語Rを用いたバイオインフォマティクスを統合することで、内因性代謝物の網羅的解析手法である「メタボローム解析」の新たなハイスループット・プラットフォーム “PiTMaP (Probe electrospray ionization/tandem mass spectrometry using an R software-based data pipeline)” の開発に成功しました。

本研究ではPESI/MS/MSを用いて、煩雑な前処理操作を行うことなく、マウスおよびヒトの臓器試料から直接、解糖系・TCA回路・ペントースリン酸経路・メチオニン代謝経路などの主要な生体内代謝経路に関連する72成分のメタボライトを僅か2.4分で測定する手法を確立しました。また、統計解析言語Rを用いたバイオインフォマティクスによって、全対象成分に対する箱ひげ図の作成、多変量解析と結果の図示、VIP値の算出とVIP値に基づく検定対象成分の客観的な絞り込み、ならびにFDR補正を考慮した有意差検定の実施と有意差が観察された成分に対する箱ひげ図の作成を1分以内に全自動で完了することに成功しました。さらに、PiTMaPを肝障害モデルマウスの肝臓試料および悪性度の異なるヒト髄膜種の脳試料に適用した結果、各病態に関連するメタボライトを抽出することに成功し、PiTMaPの実用性を証明することに成功しました。

PiTMaPは、近年、高い注目を浴びているメタボローム解析を「簡便に・迅速に・誰にでも」行うことを可能とする新たなハイスループット・プラットフォームであり、メタボローム解析の汎用化に極めて有効です。また、PiTMaPは代謝性疾患などのモデルマウスの迅速病態解析や、脳神経外科などの外科手術時における術中補助診断技術への応用など、幅広い分野において活用できることが期待されます。さらに、対象成分を二次代謝産物などにも拡張することで、植物科学や、近年高い注目を浴びているエクスポソーム解析への応用も期待されます。

本研究成果は名古屋大学研究強化促進事業 若手新分野創成研究ユニット・フロンティア(in vivoリアルタイム・オミクス研究室、代表研究者 財津 桂)、東京女子医科大学、産業技術総合研究所の共同研究に基づくものであり2020年5月25日付で米国科学雑誌「Analytical Chemistry」オンライン版に掲載されます。

概要図

近年、メタボローム解析1は病態解析や薬物の毒性発現機序の探索などに広く用いられていますが、現在、メタボローム解析の測定系には主として質量分析2が用いられています。しかし、質量分析を行うためには煩雑な前処理操作が必要であり、多検体処理には多大な労力と時間が必要となることから、メタボローム解析のハイスループット化が強く求められています。特に、質量分析計の操作は一般的に専門性が高く、メタボローム解析を汎用化するための高いハードルとなっています。さらに、メタボローム解析で得られたデータは多変量のデータであり、結果の解釈には、多変量解析3などの解析手法が不可欠です。

よって、メタボローム解析のハイスループット・プラットフォーム4を構築するためには、質量分析の迅速・簡便化とバイオインフォマティクス5を統合することが強く求められてきました。

これまでに、財津准教授らの研究グループでは、探針エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(PESI/MS/MS)6を用いることで、煩雑な前処理操作を行うことなく、マウスの臓器試料から直接、メタボライトを測定できる手法を開発してきました(Zaitsu et al. Analytical Chemistry 2016, Hayashi, Zaitsu et al. Analytica Chimica Acta 2017)。本手法は微細針を対象成分のサンプリングとイオン化に用いるため、煩雑な前処理操作を行う必要がなく、臓器内のメタボライトを直接測定出来ることから、ハイスループット分析への応用が強く期待されてきました。しかし、従来の手法では対象成分数が26成分に限られており、本手法をメタボローム解析として応用するためには、対象成分数の拡張が不可欠でした。また、PESI/MS/MSを用いて迅速なデータ採取を行ったとしても、結果の解釈には、多変量解析や有意差検定を逐一行う必要があり、ハイスループット化を達成するためには、迅速なデータ解析が可能なバイオインフォマティクスの開発が不可欠でした。

新たに開発したPiTMaPでは、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC/MS/MS)に於いて汎用的に用いられている「Scheduled SRM法7」をPESI/MS/MSに初めて導入し、マウスなどの臓器試料から直接、解糖系・TCA回路・ペントースリン酸経路・β酸化経路・メチオニン代謝経路などの生体内代謝経路8に関連するメタボライト72成分を僅か2.4分で測定できるようになりました。さらに、統計解析言語R9を用いて新たに開発したバイオインフォマティクスによって、全対象成分に対する箱ひげ図10の作成、多変量解析および結果の可視化、VIP値11の算出とVIP値に基づく検定対象成分の客観的な絞り込み、ならびにFDR補正12を考慮した有意差検定の実施と有意差が観察された成分に対する箱ひげ図の作成を、1分以内に全自動で完了することに成功しました。さらに、PiTMaPの実用性を検証するため、①解熱鎮痛薬アセトアミノフェン(APAP)の過剰投与によって作成した肝障害モデルマウスおよび対照マウス、②悪性度の異なるヒト髄膜種13の脳試料にPiTMaPを応用しました。

APAP誘導肝障害モデルマウスおよび対照マウスにPiTMaPを実行した結果、図1に示すように、APAP誘導肝障害モデルマウス群と対照マウス群は良好に分離することが示されました。また、VIP値を用いた検定対象成分の絞り込みを行い、多重検定を考慮した有意差検定の結果(図2)から、還元型グルタチオンやタウリン、TCA回路の構成成分などを含めた29成分のメタボライトにおいて有意な変動が生じていることが示されました。APAPの活性代謝物であり、APAP誘導肝障害の毒性本体として知られているN-アセチル-4-ベンゾキノンイミン(NAPQI)はグルタチオン抱合によって解毒されることが知られており、本研究においても、APAP肝障害モデルマウスにおいて還元型グルタチオンの有意な低下が観察されました。また、APAP誘導肝障害では、酸化ストレスの寄与やミトコンドリアの擾乱が示唆されており、PiTMaPは抗酸化作用を有するタウリンの有意な低下や、TCA回路構成成分の有意な変動を捉えることに成功しました。

図1

図1 アセトアミノフェン(APAP)誘導肝障害モデルマウスと対照マウス(Control)の解析結果。
上:PLS-DA score plots。破線、点線はそれぞれ全データの95%、99%信頼区間を示す。赤色および水色の楕円は各群の95%信頼区間を示す。
下:PLS-DA loading plots。設定した基準値より高いVIP値の成分名が自動的に赤字で表示され、検定対象成分を一目で確認することができる。

図2

図2 多重検定を考慮した有意差検定の結果、有意差が認められた成分の箱ひげ図(赤色:APAP肝障害モデル、青緑色:対照マウス)

次に、悪性度の異なるヒト髄膜種の脳試料(G1~G3)にPiTMaPを適用しました。ここでは食事等の影響を考慮し、VIP値による検定対象成分の絞り込み基準を厳しく設定しました。PiTMaPの実行結果、多変量解析の結果(図3)においてG1~G3の群分離が観察されましたが、3群は3方向に分離することが示され、悪性度の進展とメタボロームの変化が連続的ではないことが示唆されました。さらに多重検定を考慮した有意差検定の結果(図4)、G1-G2およびG1-G3の間では脂肪酸の一種であるステアリン酸の有意な差が観察され、髄膜種の悪性度の進展に伴い、ステアリン酸が減少することが明らかとなりました。G2-G3間では有意な差が認められるメタボライトはなかったものの、G1-G3の間では乳酸やタウリンなどの有意な変動が観察されました。一般に、癌細胞では嫌気呼吸が亢進し、乳酸が蓄積することが知られており、癌化しているG3においては嫌気呼吸が亢進した結果、乳酸が有意に上昇したものと考えられました。また、これまでに癌化した髄膜種におけるタウリン濃度は、癌化していない周辺部位よりも高くなることが報告されており、髄膜種の悪性化とタウリンの変動に関連性があるものと示唆されました。

以上の結果、PiTMaPの実用性をモデルマウスとヒトの臓器試料を用いて証明することに成功しました。

図3

図3 悪性度の異なるヒト髄膜種(G1~G3)の解析結果。
上:PLS-DA score plots。破線、点線はそれぞれ全データの95%、99%信頼区間を示す。赤色および水色の楕円は各群の95%信頼区間を示す。
下:PLS-DA loading plots。設定した基準値より高いVIP値の成分名が自動的に赤字で表示され、検定対象成分を一目で確認することができる。

図4

図4 多重検定を考慮した有意差検定の結果、有意差が認められた成分の箱ひげ図。左:G1-G2間、右:G1-G3間。

PiTMaPはメタボローム解析の迅速化・汎用化に極めて有効であり、メタボローム解析を「簡便に・迅速に・誰にでも」行うことを可能とする、新たなハイスループット・プラットフォームです。PiTMaPを用いることで、代謝性疾患モデルマウスの迅速病態解析や、脳神経外科などの外科手術時における術中補助診断技術への応用展開が期待されます。また今後、測定対象成分を追加することで、より広範囲の網羅的解析が達成できるようになり、特に近年、高い注目を浴びているエクスポソーム解析14への応用も期待されます。さらに将来的には、統計解析言語Rを用いたバイオインフォマティクスをより簡便に実行することができるよう、Graphical User Interface(GUI)15を開発・実装することを予定しています。

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May 25, 2020 at 08:14AM
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