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Friday, March 24, 2023

衛星データと深層学習を応用してデング熱発生の時空間分布を ... - 上智大学

「国・地域」から、細かな「時空間」レベルでの予測に挑戦

本研究の要点

  • デング熱患者の時空間分布予測に、衛星データと深層学習を適用した方法を開発
  • 予測されたデング熱発生地点の一部は実際のデータの近くに位置しており、モデルの有用性が示唆された
  • さらなる予測精度の向上により、感染症リスクの大幅な低減に役立つと期待

本研究の概要

上智大学大学院地球環境学研究科地球環境学専攻の安納 住子教授、中部大学の平川 翼講師(AI数理データサイエンスセンター、中部高等学術研究所 所属)、杉田 暁准教授(国際GISセンター、工学研究科創造エネルギー理工学専攻 所属)、安本 晋也准教授(国際GISセンター、人文学部歴史地理学科、国際人間学研究科歴史学・地理学専攻 所属)、宇宙航空研究開発機構( JAXA)の佐々木善信研究開発員、大吉慶主任開発研究員らの共同研究グループは、中部大学問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究拠点共同研究の枠組みを通じて、台湾のデング熱流行に関する時空間分布(※1)予測において、衛星データと深層学習を応用したモデルを開発し、その妥当性の評価を行いました。本研究をさらに発展させることで、感染症流行の正確な予測、迅速な対策の実施につながることが期待されます。

近年の気候変動の影響により、デング熱の発生と拡大が加速しています。デング熱とはデングウイルスによる感染症で、デングウイルスを持った蚊に刺されることで感染します。東南アジアや中南米などの熱帯地域、亜熱帯地域で流行しやすく、発症すると急激な発熱や頭痛などの症状が現れます。デング熱に有効なワクチンは一部の国ですでに開発されていますが、世界規模で安定して流通するまでには至っていません。

本研究グループはデング熱発生を時空間分布で予測することにより、効果的な予防や対策が可能であると考え、衛星データと深層学習を応用した研究に着手しました。

本研究では、デング熱の流行が度々確認されている台湾を対象としました。そして、過去の研究から、デング熱の流行と関係があるとされる海面温度、降雨、短波放射に関する衛星データを収集し、実験を行いました。実験には、U-Net(※2)モデルを採用しました。本研究で開発したモデルの予測精度はまだ十分ではなく、実際のデータとの重なりは少ないものの、一部のデータで実際のデータに非常に近いものが見られました。そのため、衛星データと深層学習を適用することで、デング熱発生の時空間分布を予測できる可能性が示唆されました。今後さらに改良をして精度を高めていくことで、正確な予測につながることが期待されます。

研究の背景

近年の気候変動の影響により、デング熱のような蚊が媒介する感染症の発生と拡大が加速しています。2020年の世界保健機関(WHO)の統計では、世界で約39億人が危険にさらされたと報告されています。特に、台湾ではデング熱の患者数が増加しており、2015年には約44,000件と、1998年以来最も多くなりました。デング熱のワクチンは、すでに一部の国で開発されていますが、世界規模で安定して流通するまでには至っていません。そのため、デング熱の発生を早期に予測することで、感染を予防することが非常に重要です。これまで、さまざまなデング熱の流行予測が行われてきました。しかしながら、時空間で予測することはできておらず、実用性に欠けていました。

深層学習は、気候や交通などの時空間予測に有効であることが知られています。そこで、本研究グループは、衛星データから得られる時空間的な気候要因(海面水温、降雨、短波放射)のデータと、デング熱の患者に関するデータ、深層学習を用いることで、時空間分布予測を実現できるのではと考え、研究を行いました。

研究結果の詳細

5通りのデータセット ([1]海面温度+降雨+短波放射、[2]海面温度、[3]降雨、[4]短波放射、[5]降雨+短波放射)に関して、U-Netモデルによる実験を行いました。得られた結果に対し、総合精度(※3)、平均精度(※4)、平均IoU(※5)、FWA/FWIoU(※6)、DI(※7)という5つの指標を用いて評価しました。その結果、複合データ([1]と[5])を用いたモデルが単一データ([2]、[3]、[4])を用いたモデルよりもわずかに優れていることがわかりました。

また、デング熱の発生地は主に台湾の南西部ですが、実際のデータと重なる部分が少なく、予測精度が低いことがわかりました。本研究で使用したデータでは、デング熱の患者数は2015年の大流行を除いてほぼゼロであり、数少ない症例は台湾の南西部に集中していたものの、日ごとに異なる場所で発生しました。そのため、データの不均衡な分布によって、モデル性能が低下したことが示唆されました。一方で、一部のデータは場所を特定できるほど、実際のデータに非常に近くなっており、衛星データによるデング熱発生の時空間予測の有効性が示唆されました。

デング熱の発生予測について、従来の研究では国や地域レベルに留まっていましたが、本研究では衛星データと深層学習を適用し、一部のデータでは場所を特定できるレベルにまで改善することができました。本手法をさらに発展させることで、デング熱のみならず、さまざまな感染症に対する迅速かつ効果的な予防と対策が可能となると期待されます。

※本研究は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)(RA1R803)、中部大学問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究拠点共同研究(IDEAS202008)の支援を受けて実施されました。

論文名および著者

  • 媒体名: Geo-spatial Information Science
  • 論文名:Challenges and implications of predicting the spatiotemporal distribution of dengue fever outbreak in Chinese Taiwan using remote sensing data and deep learning
  • オンライン版URL:https://doi.org/10.1080/10095020.2022.2144770
  • 著者(共著):Sumiko Anno, Hirakawa Tsubasa, Satoru Sugita, Shinya Yasumoto, Ming-An Lee, Yoshinobu Sasaki and Kei Oyoshi

用語

※1 時空間分布: ある空間に分布している測定対象を、時間ごとにプロットしたもの。

※2 U-Net: FCN(Fully Convolution Network)の1つで、画像のセグメンテーションを推定するためのネットワークで、正確な位置特定を可能にする。少ない学習画像で動作し、より正確なセグメンテーションを実現できる。

※3 総合精度: 全体の中で、正しく分類されたピクセルの割合を表す指標。

※4 平均精度: 各カテゴリーで正しく分類されたピクセルの割合を表す指標。全クラスの総合精度を平均することによって求められる。

※5 IoU(Intersection over Union): ピクセルの重なり具合を表す指標。そのクラスのグランドトゥルース(実際の正解データ)と予測ピクセルの合計に対する正しく分類されたピクセルの割合。

※6 FWA/FWIoU(frequency weighted accuracy/ frequency weighted intersection over union): 平均IoUを拡張した指標。その頻度に応じて各クラスを重み付けした値。

※7 DI(Dice Index): 各ピクセルにおけるグランドトゥルース(実際の正解データ)と予測ピクセルの類似性を表す指標。

本研究のお問合せ先

■研究の内容について
上智大学地球環境学研究科地球環境学専攻 教授 安納 住子
E-mail: sumiko_anno@sophia.ac.jp

■報道関係のお問合せ
上智学院広報グループ
E-mail: sophiapr-co@sophia.ac.jp

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