ソニーは10月5日、新規事業として「匂い」提示する技術を開発し、嗅覚測定用の製品「NOS-DX1000」を2023年に発売すると発表した。まずは医療分野での実用化を目指し、将来的にはバーチャル空間などエンターテインメント領域での活用も見込む。
「Tensor Valveテクノロジー」と名付けられた新技術は、複数の匂いのサンプルを提示し、手軽に嗅いでもらうという内容だ。NOS-DX1000では、サーキュレーターのような大きさの装置に40種類の匂いのサンプルを内蔵して、選んだ匂いを嗅ぐことができる。
匂いを出しつつ、残さない
NOS-DX1000は、耳鼻咽喉科などで用いられている「嗅覚測定」の省力化を目指して開発された。嗅覚測定は、人間の嗅覚を検査する一般的な方法で、5種類の香りの試薬を、8段階の強度で示し、嗅覚の機能を確かめるという検査だ。50年以上に渡って利用されてきた信頼性の高い検査手法だが、従来の検査は手間がかかるという課題があった。
従来の嗅覚測定では、5種類×8段階の匂いそれぞれに小瓶が用意されており、医師が瓶から試薬を取り出して、被験者に匂いを嗅がせるという方法を取っている。一瓶ずつ開けて嗅がせるという作業は時間を要する上に、匂いには部屋や服に残りやすいものもあり、強力な脱臭装置を必要とするなど設備面でも課題があった。
ソニーが開発した「NOS-DX1000」は、この“複数の匂いを順番に嗅がせる”という手順をスムーズに行えるように設計されている。装置に被験者が鼻を近づけ、医師がタブレット端末を操作して匂いを選ぶ。すると装置が匂いを放出し、自動で脱臭して次の匂いを出せる状態にする、という流れだ。脱臭は3秒以内に完了し、次に嗅ぐ匂いと混ざることは無いため、検査をスムーズに進められるという。
Tensor Valveテクノロジーは、匂いのサンプルを詰めたカートリッジから、必要なだけの匂いを放出し、放出後は匂いを回収するという一連の機能が含まれている。匂いのカートリッジは1kgの力で圧縮して封入しており、放出時には小型のアクチュエーターを用いて必要量を鼻当て部に放出する。放出後は、匂いが残らないように機械内部の空気循環を利用して、吸着剤で匂いの素を回収する。
NOS-DX1000は、検査の手順のデジタル化も実現する。匂いの放出をタブレットから操作できる他、被験者が嗅いだ匂いを選んでもらうための選択肢をタブレット上に表示できるようになっている。また、検査の記録を自動で電子カルテなどで保存できるようにすることで、データ入力の手間も削減という。
実際に嗅いでみた
発表会では「シナモンやカラメルのような甘い匂い」と「桃のような甘い匂い」「汗や納豆のような汗臭い匂い」が体験できた。会場での匂いサンプルは、従来から使われている臭覚検査用の匂いを封入したものという。
シナモンやカラメルはそのままで、映画館で嗅ぐような、ねっとりとしたキャラメルフレーバーの香り。桃はフルーツのみずみずしさと甘ったるい感覚、汗くさい匂いはじっとりとしたもので、納豆の匂いに近いと感じた。
従来の嗅覚検査では、被験者が選ぶ選択肢は「甘い香り」のような抽象的なものが一般的だそうだが、ソニーの製品ではより具体的な選択肢を画像とともに表示し、被験者にとっての負担を減らす工夫をしているという。このあたりは、医療従事者と連携して検査手順を開発しているとのこと。
価格は230万円
NOS-DX1000は2023年春の発売を見込む。嗅覚測定大手の第一薬品産業と提携し、医療機関や研究機関向けの販売を行う予定だ。本体の想定価格は約230万円、交換用のカートリッジは一式20万円程度としている。
2023年の発売当初は医学的な診断には利用できない「研究用」という扱いで販売される。発売後に、嗅覚測定用のカートリッジについて、医薬品としての認定や、保険適用の診療でも扱えるような認定取得を目指すとしている。医薬品として承認された場合、嗅覚検査がより簡素な設備で行えるようになるため、視力検査のように、健康診断での大規模な実施も期待できるという。
なお、保険適用の審査は、カートリッジ部が既存の嗅覚測定用の医薬品と同等の検査水準を確保できるという認定の取得を目指すものとしている。ソニーによると、機器本体は「医療機器としての認定取得は不要」という判断を日本の薬事担当当局から得ているとしている。
マーケティング調査やエンタメ用途への応用も
匂いを提示する技術について、ソニーは医療以外の分野への応用も見込む。具体的には、マーケティング調査とエンターテインメント分野での活用を想定しているという。
マーケティング調査では、例えば化粧品や飲み物の匂いのサンプルを示して、消費者の好感度を調査するといった用途をそうてい。
エンターテインメント分野では「バーチャル空間での嗅覚の活用の可能性を社内で検証している」(ソニー 新規ビジネス・技術開発本部 副本部長櫨本修氏)という。例えばソーシャルVRは離れた場所で同じ映像や音を体験する技術といえるが、匂い提示技術によって、“匂い”を共有するという新たな体験を追加できるという。
医療分野以外への展開について、具体的な提供時期やどのような形となるかは未定としている。ソニーではオープンイノベーションとして、外部の企業などをパートナーとして迎えて共同でサービス開発を行う方針だ。NOS-DX1000の匂いカートリッジについては、嗅覚検査用のもの以外に、独自の香料を封入するようなカスタムメイドサービスも提供するとしている。
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