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Friday, May 20, 2022

留学で出会ったiPS細胞、山中伸弥さん「患者に届くまで頑張る」…コロナ治療への応用も検討 - 読売新聞オンライン

 中部経済の未来と地域づくりを考える「読売Bizフォーラム中部」が17日、ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋(名古屋市中区)で開かれた。京都大学iPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥さんが、研究の成果と展望について語ったほか、スポーツジャーナリストの増田明美さんと対談した。

 医学の道に導いてくれたのは、父親でした。小さな町工場を経営していたが、私が中学生の頃に輸血で肝炎になった。原因は分からず、治療法もない。苦しむ父を見て、医者になった。

 研修医になってまもなく、父は58歳で亡くなった。私は25歳。自分の無力さを強く感じた。父のような患者を治すため、研究者の道を歩んだ。

 父が亡くなった翌年、病気の原因がC型肝炎ウイルスだと分かった。世界中の企業が治療法の開発にとりかかり、薬ができた。かつて治らなかった病気が治るようになる。医学の成功例であり、私たち研究者はそれを目指して努力している。

 ただ、原因がわかってから薬ができるまでに四半世紀かかった。私たちの仕事の大変な点の一つです。

 米国に31歳で留学した。滞在した4年弱が、私の基礎になっている。

 最も役に立ったのは実験ではなく生きていく上でのモットー。恩師は研究者として成功する 秘訣ひけつ は「VW」だと教えてくれた。英語の「VISION」(ビジョン)と「WORK HARD」(ワーク・ハード)の頭文字で、しっかりしたビジョンを持ち、一生懸命努力すればきっと成功するという意味です。

 研究の目的は、偉くなるためでも研究費をもらうためでもなく、患者さんの病気を治すこと。自分への戒めです。

 米国で出会ったのが、iPS細胞だった。皮膚や血液の細胞に、コンピューターのプログラムを書き換えるように、遺伝子を導入する。

 京都大学iPS細胞研究所のビジョンは、その医療応用。病気のやっつけ方は、脳神経や筋肉などの細胞をつくって移植する「再生医療」と、患者の細胞を病気の原因究明や治療薬開発に使う「薬の開発」の二つ。

 再生医療は、特にがんについて、iPS細胞で免疫細胞を若返らせて治療できないかと世界中で研究が進んでいる。パーキンソン病の治療法にもなり得る。目の角膜や心臓、血液の病気、脊髄や膝の軟骨の再生もゴールがみえてきた。

 薬の開発は、アルツハイマー病、遺伝性の難聴、全身の筋肉が衰える「筋 萎縮いしゅく 性側索硬化症(ALS)」、筋肉が骨になる「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」の四つに関する治験が進んでいる。新型コロナウイルスの治療にも応用ができないか、検討されている。

 研究から臨床まで、大勢の協力が不可欠で、人材を確保し、能力と経験を維持する重要性を痛感した。本格的な医薬品開発には製薬企業による数百億円もの投資も必要だ。

 米国では新興企業が成功を収めているが、それでは医療費が高くなる。私たちは「京都大学iPS細胞研究財団」を設立し、細胞の製造や品質管理を担い、安価で質の良い細胞を製薬企業に提供している。寄付で成り立っている事業だ。

 寄付活動の一環でマラソンを走っている。沿道から「研究もマラソンも頑張って」と応援される。理解が広がってきたと感じる。iPS細胞を使った医療はまだ志半ば。患者さんに届くまで、しっかり頑張りたい。

山中さんと増田さんは、マラソンやiPS細胞の可能性について話題に花を咲かせた。

〈研究とマラソン〉

 増田さん 山中さんの自己ベストは3時間22分34秒。コロナ禍でもタイムを維持していて、すごい。

 山中さん 米国やヨーロッパへの出張がなくなり、月300キロ・メートルほど走っている。60歳になるので、年齢に負けず自己ベストを更新したい。

 増田さん 研究とマラソンの共通点は。

 山中さん マラソンを走る研究者は多い。研究は失敗の連続という、つらい仕事。マラソンもつらいのは同じだが、練習すれば自己ベストが出る。その成功体験から、研究者がはまってしまうのだと思う。

〈iPSの可能性〉

 増田さん iPS細胞は、視覚障害者や車いすの選手たちに良い影響があるのではないか。細胞が若返るなら、私も復活できるのでは……無理ですか?

 山中さん その技術は、まず自分に試したい。憧れですね。どうして人が年を取るのか、不思議です。

〈大阪万博〉

 増田さん 2025年の大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマ。iPS細胞は展示しますか。

 山中さん 地元なので、成果の一つとしてお見せしたい。昔の大阪万博は右肩上がりの時代だったが、今はそうではない。少子高齢化などが進み、成熟した明るい未来を見せるのは難しいが、楽しみです。

  やまなか・しんや  1987年神戸大医卒。奈良先端科学技術大学院大助教授などを経て2004年から京都大教授。iPS細胞を世界で初めて作製し、12年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。今年3月に京大iPS細胞研究所長を退任し、現在は京大iPS細胞研究財団理事長。大阪府出身。

  ますだ・あけみ  高校時代に長距離種目の日本記録を次々と塗り替えて注目される。マラソンでロサンゼルス五輪に出場したほか、日本最高記録を12回、世界最高を2回更新した。レース解説の軽妙な語り口で知られ、テレビドラマでナレーションも担当した。大阪芸術大教授、日本パラ陸上競技連盟会長。千葉県出身。

 ◆ iPS細胞(人工多能性幹細胞) =万能細胞の一種で、臓器や組織の細胞に変化でき、ほぼ無限に増やせる。2006年に山中教授らがマウスで、07年に人で作製に成功した。皮膚や血液の細胞に遺伝子を組み込んで作り、難病の治療や創薬研究への応用が進んでいる。

 フォーラムは一般社団法人「読売調査研究機構」が主催し、読売新聞社が後援する会員制セミナー事業。今回も新型コロナウイルスの感染対策を講じて開かれた。

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