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Tuesday, October 26, 2021

マッチングアプリのノウハウを応用 元リクルート社員が手掛けた1対1のパーソナルジムは何が違うのか - ITmedia

 ありとあらゆる分野で進んだ「リモート」化。コロナ禍の副産物として、リモートワークやワーケーションなどが普及し「物理的に移動する必要がない」ことのメリットの認識が進んだだけではなく、コンサートなどでもリモート開催が前提のイベントが一般化しつつある。

 その「リモートの魅力」に世の中が気付く前、2019年7月から1対1のオンラインパーソナルトレーニングを提供するサービスがある。ECサイトの運営やIoT製品開発などを手掛けるジザイエ(東京都新宿区)が展開する「ZENNA(ゼンナ)」だ。

ジム (出所:プレスリリース)

 収録したエクササイズビデオや、同時に複数人を対象にオンライントレーニングを提供する他社サービスは他にあるものの、マンツーマンを売りにしたオンライントレーニングとしてはZENNAが初めての試みだという。

 自重トレーニングや簡単なダンベルを使用したトレーニングなどを提供し、レッスン数は20年7月から今年5月までの10カ月間で約150倍に増加。有料会員数は2020年秋ごろから急増し、20年9月では200人弱だった会員数が、現在2000人超にまで増えた。

ジムジム 10カ月でレッスン数、会員数共に増加

 トレーニングの技術や知識のみならず、マンツーマンだからこそ会話の中で生まれたメンタル面やライフスタイル面でのコーチングに人気が集まり「今までは運動がなかなか続かなかった人」をしっかりフォローする“良い意味で想定外のニーズ”が定着率を高めている。

 会員数が急増した背景には、巣ごもり需要の他に、同社の中川純希社長が前職時代に携わっていた「マッチングアプリ制作」のノウハウが生きているという。

Webマーケティングの手法でトレーナーと生徒を”マッチング”

 実際に足を運ぶトレーニングジムとZENNAは、“客が運動をして健康的な体や魅力的なシェイプを手に入れる”という点は共通しているが、中川社長は「顧客層が違うイメージ」と話す。

ジム (出所:プレスリリース)

 もともとスポーツジムに勤務していた、ZENNAのチーフトレーナー・末吉史英さんは「フィットネス業界は『フィットネスを自分で楽しめる人』向けの場としてこれまでありました。そのため『健康診断で運動を勧められたから』という理由でジムに加入したお客さまは、継続が難しい現状がありました。そういった人々を受け入れる場所を作りたいという思いがありました」と、フィットネス業界の多様化を目指す。

 また、オンラインでのトレーニングは、トレーナーにとっても「時間と場所を選ばない」というメリットを生み出していた。末吉さんは「当社のトレーナーには特徴があって、収入面よりも自分が自由に生活できるということを大切にする人が多いです」と話し、優秀なトレーナーの獲得にも一役買っていると胸を張る。

継続率は9割以上

 ZENNAの特徴の一つが、高い継続率だ。次月以降の継続率は9割以上を実現。中川社長は「コーチングの要素を入れているので、通常のフィットネスジムよりも継続率は高いと思います」と自信をのぞかせる。

ジム 中川純希社長

 「この人からトレーニングやコーチングを受けたい」というきっかけを掘り起こす一環で“トレーナーのスター化”を意識して取り組んでいる。トレーナー個人の名前でのSNSアカウントや、トレーナーが主役になる動画コンテンツを作成して、トレーナーと潜在顧客の接点を多く作り出す。

 中川さんは「『ZENNAに登録したら、本当にこの人に教えてもらえるんだな』という雰囲気を醸しています」と話す。

 実際に、動画を投稿し始めてから半年ほどすぎたあたりで、末吉さんは自宅の最寄り駅で「YouTubeで見ました。本当にいるんですね!」と声を掛けられたという。「届いているんだなと思って、ビックリしました」(末吉さん)

 このようなWebマーケティング的な手法は、中川社長が前職で務めていたリクルート時代に手掛けたマッチングアプリのノウハウが生きている。中川社長は「個人間をマッチングさせることを、トレーニング業界向けにアップデートしています」と話す。「トレーナーさんの得意分野や知識、経験を大事にしながら、SNSでどのように発信していくかを考えています」

トレーナーの顧客獲得率と継続率を可視化

 また、IT企業では当たり前となっている短期間でPDCAサイクルを回す手法を導入。トレーナー一人一人の顧客獲得率と継続率を可視化し、知識や情報の共有をオンラインで完結することで効率化を進めた。

 当初は年代や性別を問わずに幅広く行っていた集客も3つのターゲット層に分け、マーケティング手法の違いを色濃く出している。タイプ別では「30〜40代女性」「40〜60代女性」「30〜60代男性」だ。

 「それぞれフィットネスに求めていることが違うので、広告のキャッチコピーも分けて出すようにしています。例えば、若い女性に対してはボディメイク的な部分を押し出し、女性のモデルを起用してポップな印象にするなどです。男女や年代で分けるという意味では、これにもマッチングアプリの手法が生きています」

 また、30〜40代の女性は、ECでコスメやサプリメントなどを購入したいと考えている割合も高いことから、ZENNAで構築した顧客基盤に対し、新しい商品やサービスを提供するといった、総売上数を増やす施策の展開も可能だとしている。

ジム 利用者の男女比は女性が高い

 今後、ジザイエではフィットネス分野に留まらずに、利用者のバイタルデータをIoT機器で蓄積・分析して日々のトレーニングやライフスタイルの向上につなげたり、何らかの異変を早めに察知して健康維持に寄与したりすることも考えている。

 中川さん自身が脳梗塞に倒れてしまったという経験が、その思いを育てていた。東京大学大学院で精密工学の研究をしていた中川さん。「世の中の人にきちんと届く形で研究成果を使いたい」と、コミュニケーションを大切にする温かみと生活を進歩させる先端技術の両面から、健康づくりのアプローチを続ける。

著者プロフィール

長濱良起(ながはま よしき)

フリーランス記者。元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。

琉球大学マスコミ学コース卒業後、沖縄県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。

2018年、北京・中央民族大学に語学留学。同年から個人事務所「XY SUDIO」代表。記者・ライター業の傍ら、フリーのTVディレクターや音楽制作業でも活動する。1986年、沖縄県浦添市出身。

著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(東洋企画工房)がある。


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