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Thursday, June 17, 2021

「ゲノム編集 産業応用を」 - 読売新聞

 海外企業などの特許に抵触しない「国産」のゲノム編集の技術を開発した 刑部敬史おさかべけいし ・徳島大教授(分子生物学)らの研究論文が今月、英科学誌「Nucleic Acids Research」に掲載された。この技術の国産化を進める意義などについて、刑部教授に聞いた。(今津博文)

 ――ゲノム編集には、どのような可能性があるのですか。

 例えば医療分野では、病気の原因になっている遺伝子を修正した細胞を患者の体に戻す「遺伝子治療」や、免疫細胞を強化してがんを攻撃させる「がん免疫細胞療法」など、これまで難しかった治療の道が開けます。

 人の病気のウイルスに感染する研究用のマウスができれば、新薬やワクチンの開発が加速します。農作物や家畜の品種改良も、従来の技術より速く、また確実にできるようになります。

 SDGs(持続可能な開発目標)の分野でも、石油に代わるバイオマスエネルギーの効率を高めるため、有用な微生物をゲノム編集で改良するようになるでしょう。

 ――世界で主流のゲノム編集技術と比べ、今回の技術はどんな点が優れていますか。

 ゲノム編集には、DNAを切断する特別な酵素が必要です。現在の主流は「キャス9」という酵素ですが、狙った遺伝子とは別の場所を傷つけてしまうことがあるのが課題でした。

 私たちは「TiD」という、キャス9とは別の酵素の複合体を使う方法で、狙った場所だけをキャス9よりも正確に切断できることを確かめました。医療に応用しやすいと考えています。

 ――国産の技術が、なぜ必要なのですか。

 現在のゲノム編集技術の大半は、欧米の研究機関が特許を持っているので、日本の製薬会社が新薬の開発に使おうとすると、多額の特許料を求められる可能性があります。このため国内ではゲノム編集の産業応用があまり進んでいません。

 しかし今、世界では生命科学の医療や産業への応用が、ものすごい勢いで進んでいます。新型コロナウイルス対策を巡っても、欧米では全く新しい仕組みのワクチンが次々に実用化されているのに、日本は出遅れました。ゲノム編集の産業応用が遅れたら、世界から取り残されてしまうという危機感を持っています。

 ――これからの目標は。

 徳島大には医学や薬学、工学などの分野で実学研究の伝統があります。徳島大発のベンチャーを設立して、国内の企業が、この技術をどんどん利用できるようにしたいと考えています。

<メモ>ゲノム編集 DNAを構成する4種類の塩基(アデニン、チミン、グアニン、シトシン)の配列を操作して、ゲノム(全遺伝情報)の狙った場所だけを書き換える技術。腸内細菌などの微生物が、ウイルスから身を守るために備えているDNA切断酵素を利用した「クリスパー・キャス9」と呼ばれる手法が有名。この手法の開発に関わった欧米の女性科学者ジェニファー・ダウドナ、エマニュエル・シャルパンティエの2人は、2020年にノーベル化学賞を受賞した。

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