ツインモーターのハイブリッド「Eテック」を採用
text:Andrew English(アンドリュー・イングリッシュ)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
もし地球環境を救うために、メルセデス・ベンツSEクラスからコンパクトカーへの乗り換えを考えているなら、車種はしっかり選んだ方が良い。二酸化炭素の排出量削減のためには、ダウンサイジング以上のことが必要となっている。
2020年に欧州で運用が始まる、一層厳しい排気ガス規制によって、コンパクトカーも厳しい立場に追い込まれる。規制に対応するには、何らかのかたちで電動化技術を採用しなければ難しい。
一方で、バッテリーを搭載した純EVに絞るという選択も、現状は価格の面で困難だ。ルノーで製品計画を率いる、アリ・カッサイも、「3万ポンド(429万円)もする純EVのハッチバックを作っても、購入者には多くの抵抗があるはずです」 と指摘している。
ルノーは既に純EVのゾエをラインナップしている。同等クラスに属する5代目クリオ(ルーテシア)には、差別化したドライブトレインが必要となるはず。そこで選ばれたのが、Eテックと呼ばれるハイブリッド。価格は2万5000ポンド(357万円)ほどに設定される予定だ。
ちなみに、クロスオーバーのいとこ、キャプチャーには、同じシステムをベースとしたプラグイン・ハイブリッド版が2020年末に追加される予定となっている。
このコンパクトカー・クラスのハイブリッドといえば、英国ではトヨタ・ヤリス・ハイブリッドとホンダ・ジャズ(フィット)・ハイブリッドが古株。どちらも10年近く前から、優れた経済性を証明してきた。
エクストレイルのモーターに、F1技術も応用
このEテックと呼ばれるシステムに、8年ほど前から取り組んでいるルノー。フランス政府が、53.1km/L程度の燃費で走行可能なエコカーを、2010年代後半までに開発することを要求したのがきっかけ。
2014年のパリ・モーターショーには、ルノー・エオラブ・コンセプトが発表されている。空力を重視したボディには、3速クラッチレス・トランスミッションに、プラグイン・ハイブリッドを採用している。
このコンセプトモデルには、1.0L 3気筒ガソリンエンジンを搭載し、最高出力は76ps。燃費はWLTP値より甘いNEDC値で99.83km/Lで、二酸化炭素の排出量は22g/km。電気のみで64kmの走行が可能とうたわれていた。
「エオラブ・コンセプトから多くのことを学びました。Eテックに2基のモーターを搭載した理由も、コンセプトカーから来ています」 と、パワートレイン・マーケティング・ディレクターのグレゴワール・ギネットが話す。
Eテックには、F1マシンが搭載するエネルギー回収システムの技術も応用。コンパクトなルノー製ドッグクラッチ4速トランスミッションと、ツインモーターをベースとしている。組み立てはフランスのリュイッツ工場で行われる。
主体となる電気モーターは、日産エクストレイル・ハイブリッドのもの。電圧230Vで稼働し、最高出力は48ps。2基目の小さなモーターも、同じ230Vのユニットで20psを発生する。
大小どちらもクルマを駆動し、エネルギー回収も行える。だが小さなモーターはガソリンエンジンの始動もまかなう。トランスミッションを介してモーターの回転を同期させ、バテリーの充電を管理し、エンジンの始動に最低限必要なエネルギーを蓄える。
1.6L 4気筒は日産製MPIエンジン
ガソリンエンジンは142psの1.6L自然吸気4気筒エンジンで、ベースとするのは、ロシアや南アフリカ向けに日産が開発したMPIエンジン。エアコンのコンプレッサーやウォーターポンプなど、補機類はすべて電気で駆動され、補機ベルトがないところが注目だ。
ドッグクラッチ4速トランスミッションは、2速のトランスアクスルが組み合わされ、8速までのギア比を備える。どちらにもニュートラルが備わり、ギア比は理論的に15段まで選択することが可能となる。
エンジンやモーターは、ボンネット内に搭載。1.2kWhの容量のリチウムイオン・バッテリーは、荷室の床下にレイアウトされ、重さは38kgだという。燃料タンクは小さく、車重は1.3LのデュアルクラッチATを持つクリオ(ルーテシア)と比べて10kg増しとなっている。
始動時、エンジンの熱で車内を温める必要がない限り、エンジンは起動しない。基本的にクリオ(ルーテシア)Eテックは電気モーターで走り出し、16km/hまでをカバー。その後、2基目のモーターがエンジンを始動させると、すぐにシンクロモードに切り替わり前進をサポートする。
ドライブモードは複数を用意。エコモードでは、バッテリーに余力がある限り、70km/hの速度域までをEV状態優先で走行できる。ハイブリッド・モードでは、ガソリンエンジンと電気モーターを組合せ、燃費効率を最大まで高める。スポーツ・モードは、走行性能優先だ。
エンジンとモーターの複雑な動き
シフトレバーで回生ブレーキの設定が選べ、アクセルペダルを戻した時の回生ブレーキの効きを強くできる。キックダウン・スロットル機能は、すべての動力源を用いて力強い加速が得られるもの。エコ・モードは一時的にキャンセルされる。
フルパワーでの走行を長時間続けると、2基目のモーターが、メインモーターの駆動のためにバッテリーの充電を始める場合がある。また最低充電量を保つため、エンジンはしばしば意図せずに始動。制限速度より高めのスピードで走行し続けると、充電のために、本来より高い回転数をエンジンが保つ場合もあるようだ。
またエンジンは、アクセルを戻しても数秒間高い回転域を保つ癖がある。ドグクラッチのトランスミッションは、時々耳障りなノイズを響かせる。スポーティな走行も期待はできないが、今回の試乗車はプロトタイプということで、完全に仕上がったシステムではなかった。
しかし、ほとんどの場面でドライビングの印象は良い。トヨタ製システムのような、ラバーバンド・フィールもない。
ボディにはハイブリッドを示すエンブレムが3つ付き、ダッシュボードに電力量や航続距離が表示される以外、見た目は通常のクリオ(ルーテシア)と同じ。現状では区別は殆どできないだろう。
コースには石畳の敷かれたフランスらしい道も含まれていたが、乗り心地は落ち着いており、きついカーブを曲がってもボディロールは控え目。クリオ(ルーテシア)らしく、良く走った印象だ。
都市部の8割はEV状態で走行が可能
ルノーによれば、Eテックを搭載したクリオ(ルーテシア)は、都市部での運転の80%をEV状態で走行が可能だという。また郊外での移動も含め、燃費は40%も向上するとのこと。プロトタイプの市場では、メーター上に17.7km/Lという燃費が表示されていた。
ステアリングは感触が薄いが、重み付けは適正でダイレクト。ドライブトレインはピックアップも良く充分に速いが、ややパワー不足にも感じられた。
プロトタイプでの短時間の試乗ではあったが、Eテック・ハイブリッドシステムは、トヨタ製のシステムよりバッテリーを積極的に活かしている印象だった。でも、エンジンの回転数が過度に高まることがないかわり、値は張りそうだ。
細かな弱点や耳障りなノイズは、第一印象ほど心配する必要はないだろう。販売が始まる年末までには、改善されていることを期待したい。
ルノー・クリオ(ルーテシア)Eテックを購入するなら、ボンネットの内側で行われている複雑な動きを、ユーザーはある程度理解しておいた方が良いだろう。ルノーの営業マンは、複雑なハイブリッドシステムの説明が大変かもしれないけれど。
ルノー・クリオ(ルーテシア)Eテックのスペック
価格:2万5000ポンド(357万円・予想)
全長:4050mm
全幅:1798mm
全高:1440mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費:-
CO2排出量:-
乾燥重量:1260kg
パワートレイン:直列4気筒1598cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:140ps(システム総合)
最大トルク:21.3kg-m(システム総合)
ギアボックス:8速オートマティック
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February 04, 2020 at 12:20PM
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